ジェイシフ技能競技大会で訓練協会賞 困難にぶつかると「逆に火が点く」黒澤あゆみさん(松坂屋建材㈱)にインタビュー

「内装工事は女性が活躍できる」

 昨年11月に東京ビッグサイトで開かれた関東建設インテリア事業協同組合と日本建設インテリア事業協同組合連合会(ジェイシフ)主催の全国技能競技大会で、壁装仕上競技の部で職業訓練法人全国建設産業教育訓練協会賞(敢闘賞)を受賞した黒澤あゆみさん(松坂屋建材㈱・大澤伸一郎社長、埼玉県熊谷市)。入社間もなくの平成31年4月に富士教育訓練センターで内装施工管理コース受講の“卒業生”。今回の受賞を機にお話を伺いました。

 大会への参加は前々回に続いて今回が2回目の出場。

 「受賞の喜び以上に、自分の名前が呼ばれてびっくりしました。今回も制限時間ギリギリだったのですが、緊張感もあまりなくスムーズにできました。いろいろな方に支えてもらっていた結果の受賞です」

 仕事が終わってからはもちろん、土日も自宅でずっと練習をしたという努力家で、「ここはどうしよう、この材料はちょっとやりにくいなと思った時こそ、逆に火が点いて楽しくなってしまいます。これでもういいやと言うのはできないですね」。大澤社長も「職人肌ですね。それだけ努力できるタイプ」と評している。

 これまでの思い出の仕事は、2年前の埼玉県立松山高校記念館の耐震改修工事。大正12年に完成し、令和2年に国の登録文化財に登録された建物で、ドイツ製ペンキ下地用ルナファーザー貼りを初めて手がけた。ペンキ下地のため、下地を「平らに平らにという感じで、作りもただの四角でなく入り組んだもので、貼るのに一苦労した激レアの仕事」と楽しそうに語る。

黒澤あゆみさん

 そもそもなぜ内装業界に入職したのか。しかも職人として。

 「実家がずっと大工だったのです。親戚も建築業界で、建築を身近に感じていました。私自身も手に職を持って作業する側の人間として素敵な仕事をやりたいなと思っていました」

 埼玉県立熊谷工業高校の建築科に進み、卒業後、松坂屋建材㈱に入社。成績優秀と言われる工業高校の女子であり、今の仕事への取り組み姿勢を聞いていると、さぞ学業の成績が良かったのではと思えば、「実は、担任の先生に『建築科でこんな女子は初めてだ』と言われたくらい、勉強が嫌いで入試の成績は下の方でした」。

 「興味が湧かないことには本当に興味がもてない」けれど、休みの日に仕事と関係のない買い物をしていても「例えば100均のお店に行って、『これは仕事に使えそうだな』とすぐに仕事に関連付けてしまいます。職業病かな」。

 2級建築士、2級内装仕上げ施工技能士(壁装、床、化粧フィルム)の資格者。昨年はプラスチック系床仕上げ工事作業で埼玉県の技能競技大会成績優秀者として表彰されている。今後は「まず、1級技能士になること、それから長い目で1級建築士も取れれば…」と考えている。

 「今もこれからもですが、お客様とのコミュケーション力を高めてスムーズに仕事ができるようになりたい。なおかつ、5年後、10年後、100年後も仕上がりがずっと変わらないように技能を高めていきたいと思っています。今のメーンはクロスですが、床仕上げとかガラスフィルムや粘着フィルムシートなど、内装の他の工種も会社のためにも、自分のためにも幅広くやっていきたい」

 理想の技の追求に限りはないということか。今は「まだ目標の20%かな。教わりたいことはたくさんあります。分からないことがあったら聞けるのは今しかないと思っていますので、親方や職人さんにすぐに声を掛けています」。ここにも努力家の姿勢が見られる。

 家では4人きょうだいの一番上。「末っ子の弟は10歳下。ことし高校進学。弟たちがかわいくて。お年玉は弟たちはもちろん、親にもおばあちゃんにもお年玉を上げていますよ」。孝行娘で良いお姉さん。同じ熊谷工業出身の父親とは「よく話が合います。家に帰れば、『あの道具が使いやすいけれど、どう』などと現場の話をして楽しくやっています」。

 内装の仕事は「女性でも活躍できる仕事。材料はそれほど重くないので扱いやすい。もっと女性の職人が増えた方がいいと思います。トイレなど現場の環境で改善してほしいことというのは今私にはありません。仕事が楽しくできているので。ただ、私には乗り越えられましたが、現場環境が理由で辞める人もいるようですから、もっと改善されていくと良いですね」

 最後に訓練センターの思い出を。「初めて会う人たち、私と同じ入社したての人たちと一緒にご飯を食べて生活、勉強をしていろいろ刺激を受けました。コミュニケーション力が付きました」

 初の職人として育成 大澤社長のコメント

 職人を少しでも抱えていきたいという方針から、会社で初めての職人として採用しました。どう育てたらよいのかと手探りで、職人の親方を探して外部委託契約を結んで育てていただきました。既に一人前の職人だと思っています。10年後なりに、独立もしくはこのまま続ける、あるいは施工管理に携わるといった選択肢を示し、それぞれに応じた後押しをしたいと考えています。

「既に一人前の職人」と話す大澤社長(右)